PERっていったいなんの数字?アップル株のPERはどうなっている?
2017年2月22日
Akira Kondo
![]() 「PER」、「P/E」、「Multiple」。株式投資をしている人なら必ず耳にする言葉だ。それらの意味は同じで、正式には「Price-Earnings Ratio」。日本では「PER」と呼ばれることが一般的で、アメリカでは「P/E」、または「Multiple」と呼ばれている。また、ウォール・ストリートでは、「Multiple」と呼ぶのがプロフェッショナルだ。さてこのPERは、株式の売買をするときになぜ重要になるのか?また、PERはいったい何の数字なのか、今回はアメリカ人気銘柄、Apple(NASDAQ: AAPL、以下「アップル」)を例にして見てみよう。
後者の質問の答え方は簡単だ。PERをただ公式に当てはめるだけでいい。
PER = Stock Price ÷ Earnings Per Share Stock Priceは「株価」、Earnings Per Shareは「一株あたりの利益」、または「EPS」と覚えるといいだろう。EPSはYahoo!ファイナンスやオンライン証券などのウェブサイトで簡単にみることができるが、自分でも簡単に計算することもできる。アメリカの上場銘柄は毎四半期に10-Q(四半期レポート)や10-K(年間報告書、一般的に「Annual Report」と呼ばれる)を証券取引委員会(SEC)に提出しないといけない。例えば、アップルは今年1月31日に2017年会計年度の第1四半期の業績発表をしたばかりなので、その時に提出された10-Qを見てみよう。その10-Qはアップルのウェブサイトを開いて、「Investor Relations」をクリックするとすぐに見つけることができるはずだ。その10-Qを開いてみると、「APPLE INC FORM 10-Q」と書かれた表紙が現れ、これがまさにアップルがSECに提出した四半期レポートの原本のコピーとなる。ウォール・ストリートで働く人たちはこのレポートを読むのを毎四半期楽しみに待っている。 さて、その10-Qの数ページ後の「PART I」に「Statements of Operations」が現れ、 その中にアップルのEPSを見つけることができる。アップルの10-Qや10-Kはとても見やすく、理解しやすく、投資家にとても人気があるのも特徴だ。その「Statements of Operations」は一般的に「Income Statement」と呼ばれ、企業によって言い方は変わる。そのアップルのIncome Statementを見ると、まず始めに、「Net sales」が書かれているのが、それは「売上高」だ。もちろん、10-Qなので、2016年10月から12月の四半期の数字となる。さらに下の方に目を向けて見ると、「Earnings per share」を見つけることができる。「Basic」のEPSは$3.38、「Diluted」は$3.36で、これらが投資家は業績発表会で一番初めに聴く数字となる。
ちなみに、「Basic EPS」と「Diluted EPS」の違いは、前者が普通のEPSとしたら、後者は普通株に社員などが行使するストックオプションや優先株など全てを含め、純利益をそれらの数字で割ったのがEPSとなる。それゆえ、アメリカでは「Diluted EPS」が主にウォール・ストリートや機関投資家の間で使われている。アップルの業績発表会も「Diluted EPS」のみが使われるのが一般的だ。その「Diluted EPS(以下からは、「EPS」)」の計算の仕方は以下になる:
EPS = Net Income ÷ Shares Outstanding 「Net Income」は純利益、「Shares Outstanding」は市場に出回っている株式で、これらの数字をこの公式に当てはめて見ると、 EPS = $17,891,000,000 ÷ 5,327,995,000 となり、計算機で答えを出すと、$3.36となる。これがアップルの2017年第1四半期のEPSで、ちなみに、Net Incomeは「in millions」で、「0」を6つ、Shares Outstandingは「in thousands」 なので「0」を3つ付け加えることになるので注意したい。これがEPSの計算だが、これはこの四半期のみの数字なので、さらに過去3四半期のEPSを足すと、1年分のEPSの数字を出すことができる。もちろん、そんなことをするのは面倒なので、先ほども言ったYahoo!ファイナンスで現在のEPSを見ればいい。それらのEPSは、四半期業績が発表されるたびにアップデートされるので、過去4四半期の合計のEPSとなる。それはら「Trailing-Twelve-Months(TTM)」と呼ばれ、過去12ヶ月の意味だ(四半期は3ヶ月なので、過去4四半期となる)。アップルの現在のEPSは$8.38で、詳しく言えば、一株あたりの利益は$8.38となる。
EPSがわかったので、その数字をPERの公式に当てはめればいい。アップルの株価はいつでも知ることができるので、その数字も一緒に当てはめて見ると: PER = $135.72 ÷ $8.38 で、16.20という数字が現れる。これが、PERだ。ちなみに、アメリカの投資家の間でPERを単に「P/E」というが、その意味もわかるだろう。「Stock Price ÷ Earnings」で、Stock Priceは「株価」、「÷」を「/」に置き換えて、そしてEarningsは「Net Income(純利益)」、それはらは単にP/Eだ。では、「Multiple」は何だろう?Multipleは日本語で、掛け算の意味で、「x」となる。金融機関のウェブサイトでひょっとしたら、「16.20x」などと見たことがあるかもしれない。まさに、それが「x」、Multipleという意味だ。
よく、ウォール・ストリートでこのような話を耳にする。
「How’s Apple stock trading?(アップルの株はどのように取引されている?)」 普通の投資家だったら、 「Apple is trading at $135.72.(アップルの株は$135.72で取引されています。)」 と答えるだろう。 しかし、ウォール・ストリートのプロフェッショナルは、 「Apple is trading at 16.2 times (x) earnings. (アップル株はEPSの16.2倍で取引されています。)」 と答えるのが当たり前だ。 では、そのMultiple、またはPERは何の数字を表しているのか?ウォール・ストリートのプロフェッショナルが話すように、PERは一株あたりの利益、EPSの何倍で株価が取引されているかを教えてくれる。16.2xと「x」が数字の後に付いてくるのも納得できるだろう。それでは、PERの数字が高いとどういう意味があるのか?それを知るためには、PERの公式を以下に変えて見るとわかりやすいだろう:
Stock Price = EPS × PER アップルのEPSは$8.38、PERは16.2なので、それらの数字を公式に当てはめて見ると: Stock Price = $8.38 × 16.2 = $135.75 と、現在のアップルの株価を公式で表すことができる。株価はEPSとPERから成り立っていることが一目瞭然だ。EPSはアップルの業績(純利益)を市場に出回っている株式で割った数字なので、四半期の業績発表会で最新のEPSを発表するまで変わることはない。したがって、株価を常に変化させているのはPERといってもいいだろう。PERが上がると株価が上昇し、PERが下がると株価が下落することがわかる(この記事はPERについてなので、EPSはコンスタントの状態とする)。では、そのPERはどのように変化するのか?
株価が上がる原因は「成長、成長、そして成長」というように、業績の成長が一番になる。業績の成長な中でまず初めに思い浮かぶのがEPS、または利益かもしれないが、投資家によっては売上高の成長を期待する場合も多い。なぜなら、企業の利益は為替の変化やコストカット、資産の売却なのでいくらでも作ることができる。しかし、売上は常にモノやサービスを売り続けねばならず、それを続けるためには生産性の向上が必要となってくる。生産性、英語で「Productivity」だが、それが成長の源といってもいいだろう。したがって、成長、または生産性の向上がPERを押し上げるといって間違いない。成長性がある銘柄ほど、投資家はEPSに対して何倍もの「Premium(プレミアム)」を払いたいものだ。そして、PERの別名が、プレミアムになる。
そのプレミアムが高いほど成長性がある企業で、株価がもっと上がるだろうと思う人もいるかもしれない。しかし、消費者は常に安いものを求めるのがルールだ。スーパーの棚に全く同じ商品があって、一つが110円、もう一つが100円なら消費者は必ず後者を選ぶはずだ。それは、株式市場でも全く同じになる。しかしながら、株式市場ではまず同じ銘柄が一緒に取引されていることはない(ADRを除いて。例えば東京市場のトヨタ自動車、ニューヨーク市場でADRとして上場しているトヨタ自動車)。そこで、比較の対象になるのが同業種の銘柄のPERや、その産業に属する平均PER、市場のベンチマークとなるS&P 500のPER、またはその銘柄の過去のPERなどになる。
過去のアップルのPERと見比べるとどうだろう?アップルが2000年代前半にiPodを世界に広めた頃は、PERは30を超えていた。そして、2007年にiPhoneが発売された頃はPERが20ぐらいだった。確かに、今のアップルは当時のような成長性はないかもしれない。それでも、今年後半に発売されるであろう、最新のiPhoneやAppやApplePayなどのサービス・セグメントの成長、そして去年発売されたばかりのMacBook Proの人気などを考慮に入れると、現在のPERは妥当なのかもしれない。 2012年9月19日、アップルの株価は$700.21で取引を終えた。もちろん当時の史上最高値で、また7−1株式分割の以前なので、現在の株価に直すと約$100だ。その時のアップルのPERは16.4倍で、ちょうどiPhone 5が発売される数日前になる。また、現在のPERより少しプレミアムと考えてもいいだろうが、2012年と現在の成長性を比較するとなんとも言えないかもしれない。しかし、生産性は2012年よりも向上しているので、それを考えると現在のPERは先ほどと同じように妥当と考えてもいいだろう。
ちなみに、一年前の2月6日のアップルの株価は$94ドルで、PERはたったの10倍だった。投資家はアップルの成長は終わったと思っていたのだろうが、さすがにここまでプレミアムが下がる株価に割安感が出てくるだろう。これが、投資家が株価を「プレミアム」ではなく、「ディスカウント」と思う時で、アップル株に人気が集まる頃だ。あの著名投資家でバリュー・インベスターとして知られる、Warren Buffett氏がアップル株を初めて購入したのもその 数ヶ月後になる。それゆえ、もし企業の業績が悪くもなく、将来まだまだ成長が望めるなら、PERが低い時には「買い」と思っていいだろう。
この記事では、株価のもう一つのコンポーネントとなるEPSについてはコンスタントとして扱ってきたが、アップルの場合はバランスシートにある巨額の現金からの新たな自社株買いプログラムが次回の業績発表で紹介される可能性が高く、それはそのEPSの押し上げにつながる。また、トランプ大統領の企業に対する税制改革により、アップルの税引後の利益が格段に上がる可能性もある。もちろんそれは、EPSの上昇につながる。そして、今度はPERが現在の状態でコンスタントだったら、株価はさらに上がるに違いない。
また、EPSが成長することによって、PERが下がることにも注目したい。今年1月31日のアップルの第1四半期の業績発表が例だろう。市場予想よりも高いEPSを発表したことにより、公式上ではPERは下がることになる。そのPERを押し上げるかのように、翌日のマーケットでは6%以上上昇した。この記事では、アップル株を例にしてみたが、気に入った他の銘柄でも同じように見てみるといいだろう。また、同じ銘柄を長期保有している人なら、株価だけでなく、PERがどのように変化していったかを覚えておくと将来の取引に役立つかもしれない。PERがいったい何の数字だったのか、なぜ売買する時に重要なのかわかっていただけただろうか?
*アップル、S&P 500などの株価やPERなどのデータは2017年2月18日時点。
*Economics Universe及びこの記事は投資全般についてのアイデアであり、個々の株式銘柄を推奨しているわけではありません。株式投資は自分自身にあったリスクを考えて、自身の意思で売買してください。またEconomics Universeでは日本語で記載がない場合は英語での注釈が優先されます。
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