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中国・上海:加熱する住宅市場と広がる格差
2016年4月20日
Akira Kondo
数年前から「中国経済失速」などのヘッドラインを新聞やテレビなどでよく目にするようになった。実際、中国の2015年度経済成長率は1990年以来の7%台を下回る6.9%となり失速感が数字に表れている。先週14日に発表された2016年第1四半期の成長率は6.7%となり、今年に入っても減速傾向が表れているが、GDP統計より時間差の少ない先月の数値が算出された前年同時期からの輸出の伸び率は18.7%増となり、中国経済の回復傾向も見られる。加えて、都市部の住宅市場は加熱しており、中国政府がその勢いを抑えようと様々な条件を購入者に課せ始めているのが現在の現状だ。特に香港に近い深セン(深圳、英語名:Shenzhen)では昨年の住宅価格の上昇率が50%以上にも達し、バブル状態と言っても間違いないが、この上昇傾向はまだまだ続く可能性が高い。グローバル都市・上海ではまだ残っている昔からの古風な住宅街がいたるところで政府によるたち抜きが行われ、解体作業が行われている。もちろん解体後には、大規模な商業施設や高層住宅が立ち並ぶ予定だ。個人消費の回復が進まない中、中国政府の設備投資頼りの舵取りが一段と目立つ近年となっている。
大都市で頻繁に行わる「立ち退き」は中国の一つの風物詩だ。また、その「立ち退き」から得るお金を見込んでわざと都市部にある昔からの古い建物に住み続けている住民も多い。もちろん昔からの家なので、トイレが付いていない場合も多く、住民は近くにある公共トイレを使用するのがあたりまえだ。洗濯をするのも手作業で行うか、誰かが道端に 設置した洗濯機にお金を払って使うのが日常になっている。また、住民のほとんどが高齢者やその家族で、朝は洗濯、夕方以降になると住民同士で麻雀をして情緒豊かな生活を送りながらその「立ち退き」を待っている。もちろん、若者の労働者がその住宅の一部屋を借りて住んでいる場合も多い。これらの古い昔ながらの住宅は地下鉄駅のすぐ目の前の好立地な場合が多く、近辺の高層住宅の一室を借りるよりもはるかに安価で借りることができるから人気もある。
(左)广兰路駅周辺の昔ながらの住宅街。天気が良い日は人目を気にせずどこにでも洗濯物を干すのが上海に住む人の習慣になっている。(右)昔の風情が残る广兰路駅に通じる住宅街。古い家ばかりだが、地下鉄の駅のすぐ裏にあるので立地条件は良好だ。
その「立ち退き」は数ヶ月前に通告される。社会主義の政府の圧力が強い中国では、「立ち退き反対」はあり得ないので、すぐにほとんどの住民は引越しを始める。もちろんその「立ち退き」を心待ちにしていた住民も多く、お金を得てさっさと立ち去っていく。また、住民同士でいくらお金を得たか道端で話し合う光景を目にするのもこの時期だ。この頃になると、麻雀の音も聞こえなくなり、夜はゴーストタウンに変化する。また、上海人(上海生まれの人)たちは、すでに数件の家を所有しており(上海などの都市部では、個人で土地を購入することはできないので、中国での「家」はマンションの一室の意味になる)、このような「立ち退き」対象となりそうな物件は、その日が来るまで保有している場合がほとんどだ。
(左)72.7%の住民が立ち退きに合意したと書かれている。その立ち退きの期限は4月19日だ。またそのポスターの最後には「幸せな生活を実現するために、速やかに合意して出て行きましょう」と書かれている。(右)立ち退きが決まった地域には、「4月20日以降、違法に建てられた建築はすぐに壊される」と書かれたテロップなどが貼られている。
上海の金融街から地下鉄2号線で10駅ほど離れた「广兰路(Guanglan Road)」駅周辺では、そのような風景が広範囲にわたってよく見ることができる。「立ち退き」を決めた家には赤い丸に「签(qian)」というスタンプが壁に大きく書かれ、「取り壊し」をする家には赤い丸に「拆(chai)」と書かれている。他には、 はすでに立ち入り禁止の状態を示している赤い丸に「关(guan)」の印もある。簡単に言えば、これらのサインが示すものは「立ち退き」が成立し、 すぐに取り壊しが始まることだ。その後は、その立地条件を生かして、大規模商業施設や高層住宅が建設される。
6月に開園する上海ディズニーにも近い 广兰路駅周辺の多くの古い住宅は取り壊しが決まっている。(左)赤丸に「拆」と書かれた壁は、取り壊しが行われる予定だ。風情の残る住宅街の奥では、住民たちが立ち退きから得るお金について話をしている。(中)立ち入り禁止を意味する赤丸に「关」の文字が壁に書かれている。(右)立ち退きが決まった店だが、それが実行される4月20日まではビジネスを続ける予定だ。
グローバル都市・上海では住宅価格がとても高く、まず地方都市からやってくる多くの出稼ぎ労働者たちはまず家を購入することは不可能だ。彼らのほとんどは、マンションの一室を数人でシェアするのが一般的で(または、家主が3LDKなどの一室を3〜4つの個別の部屋に改築する場合が多く、もちろんキッチンやバスルームなども各部屋に設置される)、例えばその「广兰路」周辺のシェアした家賃は2,000元(約33,600円、2016年4月18日の為替レート参照)からが相場で、2LDKなどのファミリー向けの一室は5,000元以上する。
中国全土の労働者の平均月収が3,800元(2014年度の一人当たりGDPより)なので、上海に来たばかりの出稼ぎ労働者は会社の寮などに住むのが当たり前で、その中でキャリアアップに成功したものがマンションの一室を借りれるようになる。上海に住む労働者の平均所得は 97,118元で、月収にすると全国平均の2倍以上の8,093元となり都市部の地方の格差が歴然となる。長期にわたり上海で働いた人たちは、それなりに大きなマンションの一室を借りたり、またはローンを組んで郊外の家を購入したりする。まさに、上海ドリームだ。
生まれた時から上海で育ってきた上海人はすでに家を保有しているので、2000年代の住宅バブルによって多くの資産価値を高めることに成功した。中には、複数の家を購入して、その数件を貸し出して家賃からたくさんの収入を得ている不動産投資家も多い。街中で頻繁に見るメルセデスやBMW、人気のポルシェSUVを運転しているほとんどは上海人で、彼らは不動産から得た富を高級車などの娯楽に転換している。経済や金融の記事などで目にする、「裕福なものはより裕福になり、貧しい人はもっと貧しくなる」は今まさに上海で起きている現実だろう。
とにかく所得格差の大きい上海。(左)電気自動車の最先端を走るTESLA(テスラ)は、上海でもとてもポピュラーだ。裕福な上海人は最新のアイテムにはとても敏感で、テスラの車もその一つとなっている。(右)通勤時間帯の广兰路駅。富裕層も多い上海だが、もっとも多いのが中間層の人たちだ。彼らは決して裕福ではないが、中国全土の 2倍以上の所得があり、最新のiPhoneをすでに持っているのが当たり前になっている。
もともと上海では格差社会が顕著に表れていたが、その格差はまだまだ広まるばかりだ。今年になって、上海の住宅市場は再加熱の雰囲気が出ている。もともと家賃が高い上海では、地方から移り住んだ人たちが家の値段がこれ以上高くなる前に購入しようと両親からお金を借りたり、銀行からローンをしたりと必死だ。また、家の購入は男性にとって結婚するための条件となるので、家族ぐるみでお金を出し合うことが当たり前になる。そのため、上海の中心から離れた「广兰路」周辺の住宅は多少安価なので需要が高い。新築の住宅の建設が始まるとすぐに入居募集者が下見に来て、その場でディポジット(敷金)を払う人も少なくない。それでも上海郊外の住宅価格は最低でも日本円で3,000万円は必要で、先ほども述べたようにファミリー向けの2LDK以上なら5,000万円以上は必要になる。
とにかく高い上海の住宅物件。(左)上海金融街・陆家嘴(Lujiazui)の住宅価格は日本以上に高い。日本円で最低でも数億円はする。(右)その金融街から地下鉄で10駅ほど離れた广兰路駅周辺の住宅価格は半額以下だ。しかし、それでも2LDKで、日本円で5,000万円以上はする。
2015年中旬から深圳を筆頭に、大都市上海や北京の住宅価格は急上昇している。香港に隣接した深圳では、この一年で50%以上も住宅価格が上昇した。グローバル都市・上海と北京はこの一年でそれぞれ20%、13%上昇している。一般的に価格の上昇は需要と供給で決まるが、上海では地元の裕福な人や地方から来てどうしても家を購入したい人で需要が高まっている。供給サイドも「立ち退き」から得た好立地な場所に新たに建てられた高層住宅や、郊外に新たに開通した地下鉄駅近郊に高層住宅が林立するように建設している。まだ都市として歴史の浅い深圳では、そのような光景が中心地からすぐ離れた場所でもよく見られる。特に深圳湾に面した地域には地下鉄も開通し、住宅価格の上昇に大きく寄与している。
深圳の住宅価格はこの1年で50%以上も上昇した。(左)その深圳も所得格差が広がっている。深圳・金融街の福田(Futian)は、高層住宅とエレベーターのない6階建ての住宅が林立していて、もちろん前者に住んでいる住民は後者に比べて裕福だ。(右)近年急速に発展した深圳は、とても近代的な都市になっている。また深圳の人々のほとんどが(広州他地域や他の省からの)移民なので、上海のように現地の人と移民との隔たりがない。そのせいか、深圳の人は穏やかで、横断歩道では車が親切に止まってくれたりする。また若い女性がとても多いせいか、人々はとてもファショナブルだ。
政府も需要と供給のバランスが住宅の適正価格を導くとするが、今年になってから価格上昇の著しい上海と深圳では住宅購入の引き締めを開始した。上海ではすでに一つの住宅物件を所有している現地の住人の場合は、二つ目の物件の購入には最低でも50%のダウンペイメント(頭金)が必要となった。また、もしその購入する物件の面積が140平方メートル以上、もしくはその物件の価格が450万元以上(約7,600万円)の場合は70%の頭金が必要となる。さらに、上海に住んでいるが「户口(Hukou)」という住民権を保持していない人々には住宅購入のハードルが高くなることになった。以前までは上海に住んで2年間税金を払えば住宅の購入ができたが、これからは5年間の税金の納付が義務付けられた。そして、住宅価格の上昇が激しい深圳でも似たような措置が取られるようになり、北京も同じような措置を取るのが目前とされている。(参照:2016年3月29日の英語版「中国日報China Daily」より )
需要の引き締めが目立つようになってきたが、住宅価格の上昇を和らげるため供給サイドも拡大すると見られる。广兰路駅周辺の「立ち退き」がその一つの例だろう。数ヶ月前に上海政府が「立ち退き」活動を開始し、すでに多くの住人がお金を得てその地域を出て行った。昔ながら情緒のあった地域が立ち退きの最終日に近づくにつれて姿を消していっている。その立ち退きの決まった家には赤い丸に「接」と書かれ、それは取り壊される意味だ。また、その通りには現在「立ち退き率」が書かれたポスターが貼られ、またそのポスターの最後には「幸せな生活を実現するために、速やかにサインして出て行きましょう」と書かれている。
しかし、彼らのほとんどが裕福な生まれも育ちも上海人で、立ち退きからのお金を得て高級車や新たな住宅を新たに探し求めるだろう。反対に、地方からホワイトカラーの仕事や賃金の高い仕事を求めて来た労働者は、上海で家を購入するドリームが彼らの手から遠ざかろうとしている。まさに裕福な人はさらに裕福になれるが、貧しい人には裕福になるチャンスがさらに小さくなっているようにも見える。住宅バブルは人々の富を築くこともあるが、グローバル都市・上海は昔も今も上海人が地方から来た人々を見下す格差社会が続いているのが現実だ。
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