週末の上海「人民広場」:婚活イベント
2014年8月20日
Akira Kondo
週末の人民広場。若者たちでにぎわっている場所と思いながら歩いているとそうではなかった。目にするものは、至る所にたくさんの傘が道端に置いてある。傘の上には何か書かれた紙が張ってある。「男」、「女」、「未婚」、「85年生」、「収入」そして電話番号などが書いてある。その道端にはたくさんの年配の人々が声を掛け合っている。いったいこのイベントらしきものは何なのか?
人民広場は中国のいろいろな都市にあるが、上海の人民広場は特に有名。地下鉄3路線がこの広場の地下に乗り入れ、乗客の移動でいつも込み合っている。この人民広場自体はそこまで大きくてきれいとは言えないが、都市の中心部のいこいの広場であるのは間違いない。その周りには、ラッフルズ、JWマリオットホテル、博物館などがあり、そして歩行者天国として有名な南京東路の始まりの場所でもある。 ではなぜ週末になるとたくさんの傘の周りに年配の人たちがたくさん集まるのだろうか?それはまだ未婚の娘、息子の結婚相手を探そうと、その親たちが代わりに探しているのである。実際は代わりに探していると言うよりは、未婚の娘、息子などを持つ親たちが心配して結婚相手を捜していると言った方がいいかもしれない。 未婚の娘、息子を持つ両親たちはとにかく必死に彼らの結婚相手を探す。中国では結婚はその家族にとっての一つのステータス。特に30歳になっても未婚の男性は親からのプレシャーが大きい。「関係(GuanXi)」を大切にする中国では、家族や親友の間では付き合いを持つが、その他の人にはあまり親密になることが少ない。例えば未婚の息子などを持つ親たちは、職場などではあまり親密ではない同僚から結婚の話題を持ち上げられると身が低くなる。なぜ同僚の娘、息子は既に結婚しているのに、うちの息子はまだ結婚していないのかと。 中国では結婚には「房」が必要になる。それは男性が家を既に持っているということが結婚の絶対条件になるという意味だ。逆に言えば、女性は既に家を購入している男性にしか目を向けない。写真を見ると、必ず「有房」という字が書いてある。これは、もう家を所有しているということになる。
ちなみに上海での家(実際はマンションの一室の場合がほとんど。中国では個人が土地を持つことは許されないので、日本のような家を持つことはまず少ない。)は、住宅バブルのおかげでとにかく高額。上海の都心から1時間離れたところでも日本円で5千万もあたりまえ。しかも、マンションの2LDKの一室でその値段だ。現在の中国人の平均年収は約70万円(2013年度)。上海のような大都市なら平均年収はもっと高いだろう。それでも、30歳頃のホワイトカラーでその倍程度だ。ではなぜそれほどの年収で、高額の家が買えるのか? 未婚の息子を持つ親は、息子が結婚できる為にずっと貯金をしている。特に一人っ子政策が始まった80年以降に生まれた男の子は王子様のように扱われているのが一般だ。とにかくその息子が早く結婚して、家系を受け次いでくれることを望み、そして老後をサポートしてくれればと考えている。また男性の比率が高いのも中国特有の男女構成だ。120:100の比率で男性が多い。例えば、120の男性が結婚したいが、100人の女性しかいない。20人の男性が結婚できないことになる。 その結果、親たちは必死に息子の結婚相手を探すことになる。息子の結婚のために必死に働いて貯金をして、家を買ってあげる。ちなみに、1980年以降から中国の家計貯蓄率が高かったのはその結果だ。またその結果もあり、若者が多い都市では住宅価格が上がる。それが住宅バブルの一つの要因と考えて間違いない。 次に「収入」という字をよく見る。男性の収入も結婚条件の重要な要素だ。先ほども言った通り、中国全土の平均年収が70万円程度。上海ではその倍程度になる。その傘の上の紙にはよく「20多万」と書いてあり、それは年収が20万元以上(日本円で170万円)の男性を探しているという意味になる。よほどのよい会社で働いていないと難しい収入で、農村から来た男性には無縁に近い。
それもあって「上海戸口」という字も見かける。これは上海出身の男性、または女性のみが結婚条件になる。もちろん農村部から大都市に来て高い収入を得る人も多い。そのほとんどが高校卒業後に大都市の大学で勉強した人たちだ。大都市出身以外の結婚は条件が下がる。例えば、男性は5千万円の家の保有ではなく、郊外の2千万円ぐらいの家が条件になる。 他に結婚条件になるのが、「結婚歴」、「年齢」、そして「身長」である。これらは必ず紙の一番上に書いてある。まず未婚であることが条件になることが多い。中国、特に大都市での離婚率はものすごい勢いで上がっている。結婚後誰よりも裕福な生活を求めたい願いと現実の差が大きくなり離婚になるケースも多い。そして年齢。20代後半前には結婚したい女性が多いため、その年齢付近の男性を求めるケースが一般的だが、収入さえ高ければ30代後半頃まででもよいケースも少なくない。逆に男性は30歳以下の女性を探す傾向があるので、その年齢以上の女性は売り手市場になる。それによって、その女性が求める結婚条件が格段に緩和されることが多い。意外に重要なのが身長である。男性のかっこよさなどは関係なく、男性は女性より高いのが理想で、それが見た目の重要な要素になる。 欧米では愛を優先に追求するのが決め手かもしれないが、中国では現実のみを追求していると言った方がいいかもしれない。「有房」、「収入」、「身長」すべてが現実のみを求めている。他にも、「学歴」、「勤務先」など求めるものも多い。そして、それらのすべての結婚条件が満たされたカップルのみが結婚できると言ってよい。それらの条件を満たすには家族ぐるみで解決して行くのが一般的だ。それが中国の結婚文化であり、また経済の一部になっていると考えていいかもしれない。 |
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