アメリカ連邦準備銀行と金融政策目標
2015年9月15日
Akira Kondo
金融政策
2008年に起きた世界金融危機の時は、FOMCはアメリカ経済をその危機からのダメージを少しでも和らげようと金融政策の誘導(緩和)に必死だった。その年は各FOMCで政策金利(3ヶ月短期金利)を徐々に切り下げ、年初めの4.25%からクリスマス前にはゼロ金利となる。ちなみに、そのような政策金利を切り下げる行為を「金融緩和政策(expansionary monetary policy)」と呼び、経済を活性化させる効果がある。その反対に、2000年代中旬のアメリカ経済が住宅バブルに陥っていた頃は、政策金利を引き上げる「金融縮小政策(contractionary monetary policy)」が実施された。今日ではアメリカ連邦準備銀行はその政策金利を年内には引き上げようとしている。もちろんそのような行為は金融縮小政策になるが、実際は異常なゼロ金利から脱出するための、経済の正常化を目指す政策にあたるだろう。 双子の任務
アメリカ連邦準備銀行の主な役割は金融政策を通して経済を良い方向へ誘導していくことになる。そしてその金融政策目標は今日のアメリカの経済にとってとても重要だ。連邦準備銀行の役割に双子の任務が存在する。英語名で通称「Dual Mandate」と呼ばれ、「価格の安定」と「最大限の雇用」を意味する。しかし、それらには常にトレードオフが存在し、どちらかが上がると、片方が下がることになってしまう。例えば、インフレ率が上がり価格の安定を実施するには政策金利を引き上げることになるが、その金利を上げると経済が縮小し雇用が減ることになる。経済学ではこのようなインフレと失業率の負の関係を「フィリップス・カーブ(フリップス曲線)」が表している。 今日のアメリカ経済は原油価格の下落や世界経済の減速などによって低調なインフレ率が続いているのが現状で、政策金利も2008年末以来0%のままだ。その間、連邦準備銀行はたくさんのお金を市場に注入し、政策金利を操りやすくなるインフレ率2%台を目指したが、未だに食品とエナジーを除いたコアCPIは0%台となっている。その2%前後のインフレ率は経済を通常な状態に戻すとともに、連邦準備銀行にとって政策金利を誘導しやすくなる「バッファー・ゾーン(buffer zone)」を作ることができる。その反面、雇用市場は大きく改善し、アメリカ失業率は金融危機のあった2009−2010年の10%から、現在の5.3%まで回復した(しかしながら、雇用の形態や労働市場が変わったこともあるので一概には大きく回復したとは言えないが、数字上は健全になってきている)。そのことから、連邦準備銀行は双子の任務の一つは成功に導くことができたと言ってもいいだろう。 従って、今日の連邦準備銀行はもう一つの価格の安定に集中しているところだろう。現在の0%台のインフレ率では、アメリカ経済はデフレの状態に陥る可能性があり、連邦準備銀行はその状態に陥る事態を避けなければならない。日本経済は過去20年近くデフレの状態に陥り、その期間を「失われた20年」などと呼ばれている。経済がそのデフレ状態に 陥ると、価格が下落し、企業の利益が減り、そして賃金が低下するスパイラルが続き、長期の景気後退に陥ることになる。そのような教訓から、連邦準備銀行は金融危機後から数回にわたりQE(Quantitative Easing、量的緩和)、大規模な金融緩和を行い経済の刺激をしてきた。
3つの手段+QE
実際、QEは連邦準備銀行が金融機関の長期債権などの商品を購入して市場に資金を注入する特殊な金融政策だ。一般的な金融政策は短期債権(U.S. Treasury、通称T-bill)を売買して行われる公開市場操作(Open Market Operation: OMO)が主流だが、2008年末から現在に至るゼロ金利政策ではこの手法は働かない。このOMO以外の経済を刺激する手法は公定歩合(discount rate)と準備預金(reserve requirement)がある。 前者は連邦準備銀行が金融機関などに課する短期ローン金利で、経営状況が思わしくない銀行が他の銀行から資金を借りれなくなったときに使う最後の手段だ。そのことから、連邦準備銀行が「lender of the last resort」と呼ばれることになる。もちろん公定歩合は低いほど、その金融機関は低いコストで資金を借りることがでるが、一般的に公定歩合は銀行間同士でお金を借りる利子率より高い。そのため金融機関はできる限り連邦準備銀行に足を踏み入れたくないのが本音だ。 後者は連邦準備銀行が金融機関に課す準備預金率で、一般の預金口座を維持するための最低預金額と同じ考えだ(日本の郵貯などの預金口座などでは、最低預金額などはないかもしれないが、アメリカの預金口座では最低預金額があり、もしその額を下回ると維持費手数料などが課される)。もちろん準備預金率が低いほど、金融機関のバランスシートに柔軟性が増すので好まれる。従って、連邦準備銀行には通常このような3つの手法を用いて金融政策目標を達成している。
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