インフレとデフレの違いは何か?
August 1, 2014
Akira Kondo
現在日銀は日本の経済をインフレ傾向に向かうように継続的金融緩和を行っている。21世紀はデフレの時代から始まり、いまそのデフレから脱却しようと日銀と政府が動き出した。
ちなみに、インフレとデフレの違いは何か? それを知るためには、まずCPIを知らなければならない。CPIとは消費者物価指数(Consumer Price Index)、すなわち市場に出回っているモノやサービスの価格の変化を数字に表したもの。その値は毎月総務省統計局より発表される。 CPIの算出はLaspeyres方式を使用している。公式は、 市場に出回ったモノの値段や数量は統計局が調べるしか方法はないので、気になるのはその出回っているモノやサービスは何か知る必要がある。
2010年の改正時には588品目が消費者物価指数の算出に使われた。改正は毎五年おきにされている。また、改正時にはその時代にふさわしいモノやサービスなどが加えられたりしている。2010年の改正時には、電子辞書やETCが新たに消費者物価指数算出するためのマーケットバスケットに加わった。 さて、その588品のマーケットバスケットにはなにが入っているのか?588品目のその一部は以下になっている。 |
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そして、算出された2001年から2010年の10年間のCPIとCore CPIの値が以下の表である。
ちなみにCore CPIは、値段の変動率が激しい食品とエナジーを除いた値になっている。YoYは毎年の変化率である。 まずCPIとCore CPIの数字を見てみると、3桁または2桁の数字が100付近の値であること。これは2005年を100という基準値で見て、物価がどのように動いているかを見ることができる。まずはCPI。例えば、2005年に100円だったパンは2010年には99.6円に安くなっている、または2000年は101.5円と高かったことがわかる。 Core CPIは値段の変動率が高い食品とエナジーを除いた値になっているにも関わらず、10年の間でモノやサービスの値段が下がったことがよくわかる。 例えば2000年に102.2円だったモノは2010年には97.4円にまで安くなっている。しかし、日本人にとってはこの値段の下落傾向は理解しやすいと考えていい。 例えばフラットテレビやデジタルカメラの値段は、この10年の間でものすごく値段が下がった。コンタクトレンズも自動車保険も結構安くなったと考える人も多いだろう。消費者にとって値段が下がることは良いことに思えるかもしれないが、なぜモノやサービスの値段が安くなったのだろう? それは日本経済がデフレの中にあったこと。表の中のCPIとCore CPIの下の値を見てみよう。毎年の変化率の値である。実際、経済学者や投資家が見ているのは変化率であり、絶対値の動きは参考にすぎない。 ではその変化率の動きを見てみよう。気になるのが、マイナスのサインが多いこと。これは物価が常にマイナス方向、毎年値段が安くなっていることを示す。また、2000年の前半と後半はその変化率が高いことがよくわかる。 2000年前半は日本経済がデフレスパイラルの中に入っていった頃。その後半は日本経済が金融危機に巻き込まれた時。逆に2000年中頃は小泉政権下で景気が上向きになっていた頃で、デフレから抜け出そうと変化率が落ち着き始めた。 しかしながら食品やエナジーを除いたCore CPIはマイナスなので、2006年からCPIがプラス傾向に向かったのは原油価格の上昇によるものである。 ほとんどのモノの値段は下がっているので、まだ日本はデフレ状況の中にいたと考えていい。では初めの質問に戻って、インフレとデフレの違いは何か? 考え方によるが、デフレはインフレと同じと考えていい。インフレの時はモノの価格が上昇し企業のコストを押し上げる。例えば、今まで100円で売っていた缶ジュースのコストは80円だとする。しかし、インフレによって賃金や原料のコストが上がり90円になるとする。そうなると、今まで20円得ていた利益が50%下がって10円になる。それによって企業の収益は圧迫される。利益が出なくなると缶ジュースの値段を上げる。 デフレの時はどうか?デフレかでは賃金も上がらないので、消費者は少しでも安いモノを買おうとする。企業はそれに対応するためモノの価格を下げようとする。例えば、今まで100円で売っていた缶ジュースを90円で売ろうとする。企業のコストは80円なので、利益は20円から10円に減る。少しでも安い缶ジュースを買いたい消費者はその価格を引き下げる。缶ジュースの価格が下がって利益が出なくなると、企業はコストを下げて少しでもその価格を下げる。デフレスパイラルである。 なので、インフレとデフレは同じものと考えていいかもしれない。しかし、インフレとデフレのどちらが扱いやすいと考えるとインフレかもしれない。前米連邦準備銀行議長Ben Bernankeが以下のようにデフレを説明した。 「デフレの主な原因は総需要の低下によるものである。デフレの状況では、金利が限りなくゼロに近づく。その状況では誘導金利をゼロ以下にすることは不可能であること。」 「デフレから脱却するためには金融政策と財政政策を作動し、なおかつ経済資源をフル活用して総需要を高めるしか他ならない。もちろん最善の策は、デフレに陥る前に対策をうつことが重要だ。」 Bernanke前議長は中央銀行がバッファーゾーン(Buffer Zone)を保つことがデフレ経済にならないために重要だと主張した。バッファーゾーンはインフレ率が0%にならないよう常に1〜3%に保ち、金融政策をとることが必要だと言う。いま日銀が無期限の金融緩和をしているのも、まずインフレ率2%を目指し、バッファーゾーンを作ることが政策の第一歩と考えているだろう。 日本経済がデフレに陥ったのには様々な理由があるだろう。まず、1990年前半にバブル経済がはじけたこと。総需要が減り、賃金が伸び悩み、また失業率があがる。消費者はとにかく安いモノやサービスを求め、経済はデフレスパイラルに陥ることになる。しかし、原因はそれだけではないだろう。 2000年にテクノロジーバブルを迎えることになる。日本はもともと高度な技術を使って生産していたので、日本経済の生産性は高かったと言える。トヨタのカイゼン生産方式(Kaizen)は本として出版されるほど世界の経営者に認められたほどだ。その日本の技術と優れた生産方式は、コストを格段に下げることに間違いなく成功しただろう。デフレ経済の中にいたことによって、企業はコストを下げ、そしてモノやサービスの価格を下げること続けてしまったのだろう。 ほかの理由としては、日本がグローバル経済に巻き込まれたことだろう。2000年代日本経済がデフレの中にいる間、近隣諸国はものすごい勢いで経済成長を成し遂げた。韓国や台湾は日本の製品と変わらないほどの生産力を持つようになった。今やフラットテレビは韓国、ノートパソコンは台湾がリードしていると考えていい。それらの品質はもう日本製と変わらないだろう。日本製品は価格を下げて売るしかなく、それがデフレにもつながった要因かもしれない。 日本経済がこれからインフレに進むためには量的緩和だけでなく、生産性や競争力を高めて行くことが必然であろう。(現にヨーロッパの生産性は下がり、デフレ傾向に向かっている)インフレとデフレはどちらも経済には良い影響はないが、(バッファーゾーン内の)適度のインフレはデフレに陥らないためにも経済成長には必要なのは間違いない。 Sources: 総務省統計局: www.stat.go.jp Remarks by Governor Ben S. Bernanke, “Deflation: Making Sure “It” Doesn't Happen Here,” Nov. 21, 2002 http://www.federalreserve.gov/BOARDDOCS/Speeches/2002/20021121/default.htm |
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